PX(人事領域)のデザインを - 松本 隆応

PX(人事領域)のデザインを - 松本 隆応

ゲストの「さいきんのMy Fun」

Minecraftを小学2年生と4才の息子たちとやることです。マルチプレイで子供を喜ばせようと思ってせっせとピカチュウ(ド初心者なのであまりにも不細工な)を作っていたら小学生の無邪気な破壊衝動のもとTNT爆弾であっさり破壊されたりしています。最近買ったトイストーリーのワールドパックも今では廃墟レベルになってしまっています。

Q. 最近の業務内容を教えて下さい

A. 大きく3つ。PR、採用、組織関連です。

PR関連では、「STORES レジ」のリリース記者会に向けて経営陣やPRチームと協働しながらストーリーの組み立てやプレゼンテーション資料のデザインなどを行っていました。

組織デザイン関連では、全社的なバリュー策定にあたって、マネージャーの方々との対話のワークショップの実施や、PX(People Experience/人事領域 )部門におけるデザイナーの評価項目の設計などもおこなっていました。

採用関連では、ヘイの会社紹介資料である「hey BOOK」や、そこから派生したエンジニアの方向けの「hey book for Engineers」の編集・制作を行っていました。

他には、インナー向けのブランドコミュニケーション面でヘイの社内報である「hey hey ho」の編集・制作、ブランド・ガイドラインの構築や、ブランドのトンマナに併せたスライドテンプレートなどのブランド・リソースの制作を行っていました。

Q. デザイナーとしてPX(人事領域)の領域に注力する理由は?

A. ブランディングというものをインターナル(社内)とエクスターナル(社外)で双方向かつ統合的に実践するためです。

根源的な動機に優れたブランドをつくりたいというものがあり、それを突き詰めていったら "人" に辿り着いたという感じです。

ドラッカーの「文化は戦略に勝る」や「経営とは人を通じて成果を出す」といった言葉にあるように、優れたブランドをつくるにはUX/UIだけでなく "いい会社"であること、つまり "人" も重要であることだと考えています。

ブランド資産構築において、多くのアプローチはプロダクトやマーケティングなどエクスターナル(社外)のタッチポイントが起点に置かれています。それだけでなく、heyにおいては顧客コミュニケーションにおけるスローガンとして「ファミリア&トラステッド」という言葉があり、長期的な価値を提供し続けていくことが重要とされています。その目的に即した価値を生み出していくためには、インターナル(社内)と密接に連携して統合的かつ相互作用を起こしていくことが強力なブランド体験をつくることにつながると考えているためです。

それを実践していくためには、デザインという箱の中にブランディングを位置付けると組織横断的なブランディング活動を進めづらくなるため、独立した形で組織をつくって欲しいと希望しPX部門のブランド本部として配属されています。

Q.ブランドデザインをする中での参考企業は?

A. 人が起点という視点ではスターバックスコーヒーは参考になっています。

スターバックスコーヒーは、「人々の心を豊かで活力あるものにするために—ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションに基づいて、事業から組織戦略、それを体現するための福利厚生や教育などが組み立てられています。ミッションを実現するために必要な組織としての能力を獲得するためのあらゆる要素に整合性が保たれていて、フロントに立って顧客と直に接する人が優れたブランド体験を創り出しています。それが結果として事業やブランドとしての競争優位性をつくることにつながっています。

他には、アップルやディズニーなどで、組織が持っている強固な理念や文化がサービスやプロダクトに反映されながら、フロントに立つ人から生み出される体験が圧倒的に優れているという点では共通した構造を持っています。ヘイでも同じようにブランドに関わる人たちみんなが誇りを持てるようなものにできたらいいなと考えています。

Q.ブランド・ガイドラインなどのリソースを制作したり運用してきた中で気づきや学びはありましたか? ブランディングをどうやって推進していきたいと考えていますか?

A. ブランド・ガイドラインも “インターナルのプロダクト” というアプローチですね。

単に社内イントラであるesaでブランド・ガイドラインを共有するだけでは浸透はしないですね。ブランド・ガイドラインを起点に制作したスライドのテンプレートやライティングのチェックリストなどを、積極的に "使ってもらえる" ようにし、それによってスピードやクオリティアップなどの成果を実感してもらえるようにするということです。

何よりもまず成果を追い、ちいさな成功体験を積み上げていく。それが自然にきちんと長期的なブランド価値につながっていくものになっていくこと。ブランド・ガイドラインなどのリソースを日々の業務の中で役に立つ “インターナルプロダクト” として捉え、価値を提供していくというアプローチは個人的に大きな発見でした。

ブランディングという目に見えづらいかつ成果が測りにくいものを「どうやったら理解してもらえるか?」という問いについての解は、「日々の課題を解決するためにブランディングの視点から価値を提供し、有効性を少しずつ実感してもらえるようにし、気がついたらブランドの価値を体現していた。」状態であることが理想だと考えています。その状態になるためには、コミュニケーションの入り方が重要で、決まったものを浸透させる・教える、のような一方通行のコミュニケーションではないと考えています。

また、課題としては、もっと具体の部分で制作の自由度や拡張性は持たせていかなければと考えています。ガイドラインにあるものはあくまで一つの表層化したものであってそれが絶対ではなく、同じ見た目であることはもちろん重要ですが、それ以上に豊かなブランド連想がありその全体で整合性が保たれていることの方が重要だと考えています。

そのアクション、考え方、価値観を組織に昇華していき、その派生として、事業戦略や組織戦略とマーケティングが連携しているからこそ強いブランド体験が構築されると考えています。そのため、ブランドガイドラインの中にあるビジュアルは、広いブランドの中で表層化したものにすぎず、もっと自由度や拡張性を持たせていけたら良いなと考えています。

Q.PXデザインの領域でロールモデルはいますか?

A.

  1. 都市デザイン出身でマッキンゼーにてデザイン思考を元に組織デザインを体系化した横山禎徳さん。横山さんの都市デザインのアプローチを組織デザインに応用するというアプローチはとてもユニークかつイメージが湧きやすく参考にしています。‌‌

 ー 組織――「動ける組織」のデザイン25のポイント

  1. Money ForwardのVP of Cultureの金井恵子さん。同じデザイナー出身でありながら経営と近い距離感でカルチャーやブランドづくりに実践をしているという点で、実践の体験談を直接聞いたりして参考にさせてもらっています。‌‌

 ー 共通言語が組織を強くする。マネーフォワード「企業理念」浸透ストーリー|GCストーリー|note

Q. 関心のあるデザインのテーマは?

A. 「人事 × デザイン」です。

10年前は、スタートアップにデザイナーがいることは稀でした。それも一般化し様々なモノやコトがコモディティ化していくなか、今後競争優位性を作る上で「人」が起点になると考えています。一部ではEmployee Experience(従業員体験)という概念にデザイン思考が適応されていますが、それを組織全体に関与する領域で応用していく試みは開拓しがいのあるものだと考えています。

Q. ヘイで働くにあたって重要視している価値観はありますか?

A. 葛藤を歓迎するということです。

起きている葛藤を乗り越えて、自分なりを答えを見つけてくこと。それこそがあらゆる物事をさらにより良いものに変えていく原動力となると思っています。

ヘイにおいては、組織が常に変化し、拡大を続けていく中で様々な葛藤があり、組織内での役割、個人としてやりたいことなど、思い通りにならないことはたくさんあると思います。

個人的なエピソードだと、Coineyというブランドがなくなる際にはもちろん葛藤がありました。ただ「どうせやるならより良い方向に全力で進めよう」と考え、目的を中心に据え、より高いレイヤーで物事を考えることを重要視するようになりました。

変化が常態となっているカオスの中で、葛藤しながら自分なりの役割を見つけていくこと。そこから探索の心を持って新しい領域をどんどん深堀りしていくと、ある時ふと “おもしろい” って思えるものを発見できる。その原動力こそが自分なりの強みを生み出していく源泉になると考えています。

STORES のブランドメッセージである「Go Original」とは「多様でユニークなこだわりを価値に変える」という意味のものですが、それは他者との関係性の中で生まれ、他者との違いを突き詰める中で見えてくる結果でもあると考えています。強い覚悟を持って力強く一歩を踏み出すときはいつも葛藤があり、そこから生み出される「Go Original」を突き詰めいくこと。それが気がついたらいつの間にかたのしくなっている。つまりJust for Funになるんじゃないかと個人的に解釈しています。

Q. ヘイのデザイナーに期待することなど、一言あればお願いします!

A. 🤯クリエイティブの爆発力 🤯

ガイドラインなど取り決められている事にそってアウトプットを作ることは、楽だしそれなりのクオリティにはなるが、それでは成長にはつがならないと思います。

守破離でいうところの「守」の基礎はありつつ、「破」としていかにそこから新しい表現を生み出せるか。その上でブランドの歴史を常に書き換えていくような「離」の新しいブランド基準やルールメイキングをしていけたら良いなと思っています。‌‌‌‌